新年度の朝にふさわしい引用

 実をいえば、桑幸が心を入れ替えて勉強しようと決意したのはこれが何十回目かのことであった。季節の変わり目や、年度が改まるときはだいたい決意していたし、連休が明けたり、パソコンを買い替えたり、部屋を模様替えしたりする度に決意した。部屋の電球を取り替えたり、ドラクエを全クリしたり、風邪で寝込んだあとなどにも決意したし、ときには一〇〇円のボールペンを買って、そうだ、心を入れ替えて勉強しようと、にわかに思うことさえあった。そういう小さいのまで勘定に入れれば、ほぼ三日に一度のわりあいで桑幸は生活刷新を決意し、しかしそれは一度として実現しなかった。読書勉強は続いて半日、大抵は決意だけに終わった。
奥泉光桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』(ISBN:9784163804606


あ、でも、桑幸先生、「部屋の模様替え」はできるんだ……。
あ、この文章、まえにも引用してたわ……。

世界が終わった残滓

スクリーンショットをとっておく。

4,000日には届かず。毎朝「おはよう」してたつもりですが、一日の区切りが9時なので、寝坊すると連続が途切れる、ということが何度か。
カラースターは使いきれませんでした。貧乏性か……。でも、はてなブログの有料コースが1ヶ月1,008円は「高いな!」と思うのに、カラースター110個1,000円はまったく高いと思わないんですよね……カラースターのほうがよっぽどボロい商売だと思うんですが。

最終日の半日で11人ほど増えてた気がする……。まあ、ハイクがなくなっても、はてな全体の「お気に入り」としては残るので。

いただいたスターはこの通り。すごいな! ありがとうございました。
はじめてハイクしたときは、たぶん、「おはよう」にそのまま「おはよう」って文字を打っただけだと思うんですが、それでもスターがついたのでびっくりしました。初期の人たちが「気軽にスターを!」って空気を醸成してくれたんだと思います。

まだ利用中のサービス一覧にでてくるの……。

世界が終わった。

http://h.hatena.ne.jp/

はてな村のハイク地区はダムに沈みました。
微妙な出勤調整のため、昨日今日と早退になりまして、結果、ちょうどよかった。終わりに立ち会えました。ついでに明日休みになったから、寝るわ……。いや、寝てないわけじゃないけど……。
3月27日に終了とはいっても、何時とはわからない、終了したら閲覧もできません、終了したらログのダウンロードもできません、ってこともあって、27日の0時か、24時か!? 確実にいけるのは26日まで、ってことで、26日からちょっとテンションおかしかった。前夜祭でオフしてたし。……あれはおかしいテンションだよな? 平常じゃないよな?
で、とりあえず、朝はいけた。なんとなーく16時ぐらいを予想してて、14時過ぎに帰ってきて真っ先にパソコンを開いたら、まだいけた。いけたけど、「ここからはバックアップせずに書き散らかすやべーはてなハイク」ってキーワードが盛況で、ものすっごい速さで流れてる。みんな仕事どしたん? でも平常通り午後のロードショーの実況をしている方々もいて、それもまたおかし。
で、まだいけるか、いけるか、とびくびくしながら絵を描いてたら、16時前にようやく公式アカウントから宣告。

(しかし、サービス終了自体は、儲からないなら仕方ないな……とあきらめもつくんだけど、公式アカウントはもっと使ってほしかった。前述の、何時なのかとか、終了しても閲覧できるのかとか、有志が質問してアナウンスしてくれる、って形で知りましたから。ちっさい世界だから、その「有志」が信用できるかって知ってるけど、本来だったら公式がどう言ってるかって確認するところなんだろうに。うん、終わるのは仕方ないけど、この終わり方は、ユーザの自助努力を試された感が。ログもすごく使いにくい形式らしいし(とってないから見てない))
そして17時でぴしゃっと終了。余韻なし!
……。
いやもう、昼間っから真夜中のテンションだったからね? みんな現世に戻れたかな……。
そして私はモーツァルトベートーヴェンを聴きに行った。寝るかと思ったけど寝てません。
で、なにか癒しが必要だよ、癒しが……と思って買ってきたのが、倉知淳『日曜の夜は出たくない』(ISBN:9784488421212)と奥泉光ゆるキャラの恐怖 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活3』(ISBN:9784163909967)です。だいじょうぶ。癒し系。
……というか、ここ(ブログ)はダムに沈める予定ないよね!? まだ。……まだ……。

持ちもの

莉英には、家が広いことも狭いことも、どちらが立派で、どちらが貧しい、という観念がない。ただ単に、持っている道具を収納し、管理する面積が必要なだけだ。
森博嗣月は幽咽のデバイス』(ISBN:9784061821095

「ああ、荷物は住処の面積にあわせてウィルスのように増殖すると言うからな。いいじゃねえか、だったら全部捨てちゃえば」
西尾維新『難民探偵』(ISBN:9784062159418

 人が健康的に生きるのは、ふさわしい持ち物の量があるような気がする。多すぎても少なすぎても不都合だ。一生をくるわせずに生きていくのにちょうどいい持ち物の量をこれと言い切ることはできないにせよ、もしそれを知ることができれば、人は最も気を楽にして生きていけるような気がした。
紙上ユキ『金物屋夜見坂少年の怪しい副業』(ISBN:9784086800501


モノを買うお金と、それを維持する空間と、管理する能力と気力と、それにかかる時間でいったら、いちばん不足しているのは能力と気力です。ただし、やる能力とやる気のどっちなのかはわかりません。
いちばんあるのはお金……(※客観的には、現代日本基準で貧困層です)。というか、どうも私、じぶんで買えないものを欲しいとはほとんど思わないらしいんですよね。私の趣味領域で高いものがあんまりないせいもありますが。……うむ。コレいいな、と思って値段を見て高いと思った時点で、まあいいや、になる傾向が。
あと、何年か前に気づいたんですけど、欲しい、っていうのと、買いたい、っていうのは別なんですよ……。なので、買い物欲かどうか、を意識するようにしてます。必ずしも衝動買いを否定するわけではありませんが、それで失敗するときって、たんに買いたいだけだった、ってことが多いようなので。買った時点で満足してしまってその結果の物品をもてあますケース。

フィクション

大砲が英雄たちの脇役でしかなく、科学捜査が名探偵の従僕でしかない世界の物語、いいかえれば神話的原型に「現在」の一部が接ぎ木され、ある部分だけが「合理化」されたような歪みをはらんだ物語を受け取り続けることで、私たちの意識はどのようになってゆくのか、ふと気になった。推理小説を含めて、物語は絶えずリニューアルされたりその時代の価値観に合わせて合理化されたりするだろうが、そこで必然的に、新しい衣装ともとの地肌との間に隙間が生じる。隙間ある物語を享受する私たちとは何なのか。
巽昌章『論理の蜘蛛の巣の中で』(ISBN:9784062135214

でも、なぜこの決して自分の本心を明かさない登場人物、嘘しか言わない登場人物がきわめて高潔な印象で最後、僕たちの心に残ることになるのか。それは、嘘を言うことでしか言えない「ほんとう」というものが、あるからだとしか、言いようがありません。
 しかし、このことに関連して、もう一つ言っておきたいことがあります。それは、フィクションというものがないと、この「ほんとう」を笑い飛ばすものがなくなってしまう、ということです。「ほんとう」のことは、大事だし、それをめがけてしかヒトは生きられないが、しかし、その「ほんとう」のことは、笑い飛ばされる必要があるのです。そうでないと、「ほんとう」のことは、何ものもこれを否定できない僭主のような存在になってしまうでしょう。それは、「ほんとう」のこと自身の望まないことではないでしょうか。その僭主化をふせぐもの、そこに風穴をあけるものが、僕の考えではフィクションなのです。
加藤典洋『言語表現法講義』(ISBN:9784000260039

 私たちの生きている世界は、人食いや狼男、ヒドラや魔法使いのいる童話の世界と大して違いはありません。童話の世界を息づかせているのと同じ悪のフィクションが、私たちの現実の世界のなかにも浸透しているのです。
カレル・チャペックカレル・チャペックの童話の作り方』(ISBN:9784791761678

にんげんの尊厳

「言い忘れるところでした。ここのトイレで、予想もしていなかった恐ろしい目に遭ったんです」
「何ですか?」と訊いた。幽霊を見たのなら叫びながら部屋に走ってきたと思うが。
「気をつけろ。……紙がなかった」
有栖川有栖『江神二郎の洞察』(ISBN:9784488414078

厠に扉がない。
京極夏彦嗤う伊右衛門』(ISBN:9784043620012


数年前、京極氏の朗読(美声!)で聞いたとき、この「厠に扉」のくだりで吹き出しそうになりました。笑うところではない。じぶんが住んでる最中の家をどんどん解体していってしまうという狂気のほのみえるシリアスシーンであって、断じて笑えるところではないのですが。


ちなみに、「トイレに紙がない」を、うちではほんとうに「人間の尊厳に関わる事態」と略してます(略せていない)。


おまけ。

「弱った! 川路利良三十七歳、維新回天の嵐にいくたびか苦難に遭逢したが、これほと弱った事はなか! 助けてくれ!」
山田風太郎『明治波濤歌 下 山田風太郎明治小説全集10』(ISBN:9784480033505

走る列車の中、トイレ(大)に行きたいけど使用中。しかしいまいち人間の尊厳に関わっている気配がない。だって川路さんだもの……(どういう……)。