「白雪姫」


「わあっ、なんかへんな奴がうちで勝手に寝てるよ!」
「強盗かっ」
「戦闘準備!」
「いや、押し入った先で寝ちゃう強盗はいないと思うよー」
「てか、女の子だよー、にんげんの」
「女だからって油断できるか!」
「君、なにかあったの」
「それは触れないでおいてあげて……」
「うるさーいっ」
「うん、で、とにかく、これは誰」
「寝顔に品はないけど着てる服の生地は上等だよね……」
「寝顔に品がないからよくわかんないけど、可愛いほう?」
「これ、お姫様じゃないの、お妃様におんだされたとかって、噂がたってなかった?」
「お姫様……」
「これでお姫様……?」
「おおぐち開けて寝るお姫様……」
「よだれもたれてないかなお姫様……」
「いやー、うまれそだちの偏ったひとって、こんなもんだよ、しもじもの目にどう映ろうと気にしない」
「そうそう、ひとの目を気にするのは成り上がりだっていうでしょ」
「だからってなあ……」
「ひとんちで勝手に寝るかよ……」
「困るよね僕たち、こんなん置いてたら」
「とっとと起こしておひきとり願わないと」
「でも、これ、ふつうの眠りじゃないっぽい」
「なんかへんなもん食べさせられちゃったんじゃないの」
「とおりすがりのひとにでも」
「それまた育ちがいいんだかわるいんだかわからん話だ」
「とにかく、邪魔だよね」
「うん、場所的にも、政治的にも」
「こんなん匿ってると思われたら、お妃様になにされるかわかんないよ」
「困ったなあ」
「どっか放り出そうよ」
「こんなでっかいのどうすんだよ、動かせないよ」
「こういうときは他人におしつけるもんだよ」
「誰がいい」
「権力者に対抗できるのは権力者」
「となりの王子様でいいんじゃないの」
「面食いだっていうし」
「スケベだっていうし」
「寝てる女でもいいのか」
「ええっ、寝てる女を襲う男でいいのか」
「いや、お姫様の貞操は僕たちが心配することじゃないし」
「とにかく寝てる女でいいような男なら好都合だ、変態だけど」
「まあ、変態だな」
「変態だ」
「それにしてももうちょっと身奇麗にしとこうよお姫様」
「口開けてんのはまずい」
「うん、王子様をうまく誘導してくるまでは丁重に取り扱っておこう」
(「僕はやらないぞ!」「わかってるから、落ち着いて」「君は王子様誘導係ね」)
「そうそう、おしつけようとしてるなんて思われないようにな」
「僕たちはあくまでも無害で無邪気な小人さん
「お姫様が可愛かったから面倒をみてたんだよ」
「だから手放したくなんかない」
「それをあげようってんだから、褒美をいただかないとね」
「うんうん、ほんとうはお姫様のほうがずっと大事なんだけど、でもしょうがないよね、って感じで」
「しょうがないから褒美をたくさんもらおう」
「僕たち無害で無邪気な小人さん
「ただでさえにんげんには目をつけられやすいんだから、気をつけないとね」
「気をつけて、とりいって、もらうものはもらっとかないとね」
「なにしろ僕たち無害で無邪気な小人さんだから」


「ねえ。白馬に乗った王子様と、ストーカーってどう違うと思う?」

って、問いかけが、王子様って聞くと思い浮かぶんですよ……。

「だって、茨姫なんか眠ってるだけやないの。ただ、眠っているだけやのに、そこに王子様が通りがかって、勝手にキスするの。わたしやったら、絶対にむかつく。起きた瞬間にひっぱたいてやるわ」
 そういえば、白雪姫だって同じようなものだ。通りすがった王子様が勝手に見初めてキスをする。
「そう言われてみれば、シンデレラなんか、本当にストーカーみたいなもんやねえ。だって、勝手に惚れて、自分が履いていた靴を持っていかれるんやもん。うわっ気持ち悪っ」