高貴な態度

「ですが、不可能状況を分析するときに」ペティスが割りこんだ。「どうして探偵小説を論じるのですか」
「なぜというに」博士は素直に認めた。「われわれは探偵小説のなかにいるからだ。そうでないふりをして読者をたぶらかしたりはしない。探偵小説の議論に引きこむための念入りな言いわけなど、考えるのはよそう。隠し立てせず、もっとも高貴な態度で本の登場人物であることに徹しようではないか」
ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』(ISBN:9784150703714


アホな導入をしておりますが、本格ミステリにおける密室講義として、界隈(……)では有名なシーンらしいんですよ、これ。
しかし、本題よりも、

「なぜわれわれは密室の説明を聞いて疑わしいと思うのか。もとより懐疑的だからではなく、理由はたんに、なんとなくがっかりするからだ」

このへんの「なんとなくがっかり」問題のほうがよほど気になるというか……。
カーター・ディクスン『仮面荘の怪事件』(ISBN:9784488119058)では、H・M卿が、マジックを披露してまして、やるそばからトリックを解説するおばさまに鉄槌をくらわすシーンがあるんですが、マジックは種明かしをしてはならないが、ミステリでは種明かしをしなければならないのは、なぜか?