バナナの皮

人生には、ときには暗く寒い夜の底を歩き続けなければならないこともある。しかし、暗ければ暗いほど、寒ければ寒いほど、その足元にバナナの皮が落ちていたときの喜劇的効果は大きい。あるいはこうもいえる。どんなに暗く寒い夜にも、バナナの皮が闖入する余地はある。黒一色で塗りつぶせる夜などない。
黒木夏美『バナナの皮はなぜすべるのか?』(ISBN:9784480434876

 実際は、そのときのH・Mは、すでに完全に機嫌がよかった。クラブの食堂で、内相を相手にひと議論闘わして、勝利をおさめてきたところなのだ。しかし、その直後、思いもかけぬ椿事が勃発しようとは、彼を生んだ母親でも予想しなかったことである。あいかわらず、勿体ぶった物腰で、貴族的な冷笑を顔に浮かべながら、わがヘンリー・メリヴェール卿は、保守党上院議員クラブの階段を、悠然と降りはじめた。しかし、遺憾なことに、舗道まで降りきることはできなかった。あと三フィートほどのところで、そこに落ちていた異様な物質を気づかずに踏んづけてしまったのだ。
 それはバナナの皮であった。
ジョン・ディクスン・カー『妖魔の森の家』(ISBN:9784488118020

「バナナの皮とか落ちてたらヤバかったけどね」
「あなたは前世でバナナの恨みでも買ってるんですか」
草川為龍の花わずらい』7巻(ISBN:9784592183396


カーだったら「バナナの皮」を十回くらい書いていてもおかしくないと思うんですが、あと九回はどこにありますかね?