そのトリックを実行する執念がこわい

青山剛昌名探偵コナン (5) (少年サンデーコミックス)』のネタバレをしますのでご注意。


ぶっちゃけると、痩せてるのに太ってるフリをして、腹に被害者の生首を隠して移動させ、移動させる機会がなかったことをもってして犯人ではあり得ないようにみせる、というトリックである。
……それをやってるところを思い浮かべると、可笑しいっつーかこわいっつーか、なんだけど……。
長期計画である。もともとが太っていなかったとしたら、だんだんと腹につめものを増やしていって太っていくように見せかける。人前で食事をするときにはいっぱい食べて、あとで吐くのか、めいっぱい運動するのか。もともと太ってたとしたらダイエットをする。それも、気づかれないように。あるいは、ダイエットしてるのになかなか痩せられないんだよねえ、とか言いながら、食べてみせる。あとで吐く……。殺そうとする相手に会ったときには、その頭の大きさを、じっと目測する。帰っては自分の部屋で、その大きさのものを用意して――うーん、バレーボールとかより小さいよね、人の頭って……何がいいんだろう――腹にあてがって鏡に映し、不自然じゃないかをいろいろな角度から確かめる。ああ、まだダメだ、もう少し痩せて、もう少しつめものを多くして……、と、何ヶ月かかるだろう。殺意を見せずに、準備し、機会を待つ。そして、殺す。確実に、殺す。殺して、その首を切る。切断する。切断した首を、腹に抱える。自分が殺した人の首を、腹に抱え、それを悟られないよう、人前に出る。それをするつもりで、それができるつもりで、計画し、ずっと準備してきたのだから。そして、無事に夜が明けたとしても、今度はつめものを少なくしていって、痩せていき、ほんとうの自分の体型に戻す、ことを注意深くやらなければならない。友人が殺されたストレスで……ってことで、これは多少やりやすいかもしれない。実際に、ストレスはかかるのだ。警察を相手にしなければならない。刑事という人の目、そして自分が見落とした痕跡を見つけてしまうかもしれない鑑識の目。それだけではない、マスコミの目。事件現場に居合わせたことを知った、知人の目。そしてなによりも、事件当時にいっしょにいた、友人の目。そのすべてに対して、嘘をつく。つきつづける。なにしろ準備期間が長いのだから、そのくらいのことは想像がつくだろう。それが、自分にできると思う。耐えられると思う。あるいは、やらなければならない、と思う。やってやる、と思う。…………
あんたそれぜんぜん冷静じゃないよ!っていうのが第三者の意見である。もー、かかる手間とリスクに対してメリットが少なすぎる。いや、メリットが大きかったとしても、それだけ手間とリスクが大きいならやる価値がない。時間があるならもっとうまい計画を立てればいいものを。実際、蘭ちゃんに着替えてるところを一瞬見られたために、彼女まで狙わなければならなくなったのである。というか、見られたのは殺す前だったのだから、そこで計画実行を思いとどまっておけよ!と……やっぱり冷静じゃないんだな……。トリックに目星がつけば、こういう凝ったことをやると証拠を残しやすいし、計画性が明白なので罪も重くなる。うまくないんである。やはり殺人計画は、計画してないかのように計画したほうがよい。そして、殺人自体に失敗したときのことを考えて、走り出したら止められないような計画はやめておいたほうがいい。自分がうまく人を殺せるかどうか、わからないのだから……。
――って、なんのススメですか。


最近、読み返しているのですよ、このまんが。おもしろいー。いろいろ。