「前に、中の人が、椅子について話してて、美術品と実用品の区別がどうのって言ってたでしょ」
「してたっけ?」
「僕、わかっちゃった! 区別する方法!」
「へえ」
「触りたくなるのが実用品で、触りたくないのが美術品だよ!」
「ふーん」
「テンション低い!」
「いや……触りたくない、って、もっと他に言い方がないの……。なんか、危険なものか汚いものかって感じがするんだけど」
「危険じゃないですか! 壊したり汚したりしたらいくらとられるんだろうって!」
「そういう基準だったら、つまり、高いものが美術品で安いものが実用品、ってことになっちゃうじゃない」
「そんなこと言ってないよ!」
「言ってます! で、急に、なんなの?」
「これを見にいったのー」
「第1回金沢・世界工芸トリエンナーレ? なにそれ金沢なの、世界なの?」
「コンセプトはよくわかりません……。展示を見てきただけ。半分だけど。会場が二ヶ所になってるので。金沢21世紀美術館のほうだけ」
「触りたくなるものでもあった?」
「髑髏の菓子入れ!」
「……君の趣味って……」
「え、なんであきれてるの? 実物を見る前にも、そういうものがあるって聞いたことはある、ような気がするから、それなりにポピュラーなもんじゃないのかな、って思います!」
「そ、そう……」
「それに、髑髏って縁起モノなんだよ、たしか! そんな気がした!」
「そんな、気ばっかりしてても……」
「むう。ちょっと待て」
「……」
「縁起柄髑髏(どくろ)特集■呉服屋さんネット。どくろの柄は現代のイメージとは異なり日本では古来から吉祥柄とされていました。
だって。可愛いでしょ、髑髏手拭い」
「む、むう。愛嬌あるね……」
「第一、誰だって持ってるもんを縁起悪いとか言われたって困るよ! なくちゃ困るでしょ!」
「でも、誰でも持ってるなら、わざわざよけいに持つこともないんじゃない?」
「縁起いいものはいくつ持っててもいいの!」
「ちなみに僕らの髑髏はどんなんだ?」
「こんなんです!」
「……嘘だ!」
「うん、僕、自分の髑髏、見たことないから」
「そうだね、僕も見たことない……」
「いっそ自分の髑髏を菓子入れにするのはどうかな!」
「君のだったら、してあげてもいいよ」
「僕も、君のだったらいいよ」
「相思相愛だね」
「ははははは」
「ははははは」
「……」
「……」
「壺です!」
「壺ですね!」
「壺ですよ!」
「……」
「もうちょっとつっこんでよ!」
「いや、なにを求められているやら……」
「壺ってなにに使うものだったっけ?って、考えちゃったんだよ……」
「霊感商法に使います!」
「そんなにハキハキと答えなくてよろしい!」
「うちにはないよね」
「ないよねえ。しかもこんなにでっかいの、どうするのかと」
「比較対象が君だと大きさがわからないんですが……」
「高さ1メートル……は、ないけど、まあ、70〜80センチくらい? で、口の大きさが、僕の頭がはまるくらいしかないの」
「でもトポロジーとしては壺だからいいのではないですか」
「それをいったら瓶でも茶碗でも皿でもくまでも同相です!」
「くまさんを壺に使ったらかわいそうだよね……」
「かわいそうって問題……?」
「あ、くまさんは壺を使ってるよね!」
「はちみつ入れか……!」
「ガラス?」
「うん、こう、もっとたくさんの色とりどりのグラスがおいてあって、色とりどりの影が落ちてて、ぜひ写真を撮りたいと思ったんだけどな!」
「影を?」
「影を!」
「作品なのは影の本体のほうでは……?」