くまと壺


A「前に、中の人が、椅子について話してて、美術品と実用品の区別がどうのって言ってたでしょ」
B「してたっけ?」
A「僕、わかっちゃった! 区別する方法!」
B「へえ」
A「触りたくなるのが実用品で、触りたくないのが美術品だよ!」
B「ふーん」
A「テンション低い!」
B「いや……触りたくない、って、もっと他に言い方がないの……。なんか、危険なものか汚いものかって感じがするんだけど」
A「危険じゃないですか! 壊したり汚したりしたらいくらとられるんだろうって!」
B「そういう基準だったら、つまり、高いものが美術品で安いものが実用品、ってことになっちゃうじゃない」
A「そんなこと言ってないよ!」
B「言ってます! で、急に、なんなの?」
A「これを見にいったのー」

B「第1回金沢・世界工芸トリエンナーレ? なにそれ金沢なの、世界なの?」
A「コンセプトはよくわかりません……。展示を見てきただけ。半分だけど。会場が二ヶ所になってるので。金沢21世紀美術館のほうだけ」
B「触りたくなるものでもあった?」
A「髑髏の菓子入れ!」
B「……君の趣味って……」
A「え、なんであきれてるの? 実物を見る前にも、そういうものがあるって聞いたことはある、ような気がするから、それなりにポピュラーなもんじゃないのかな、って思います!」
B「そ、そう……」
A「それに、髑髏って縁起モノなんだよ、たしか! そんな気がした!」
B「そんな、気ばっかりしてても……」
A「むう。ちょっと待て」
B「……」
A縁起柄髑髏(どくろ)特集■呉服屋さんネットどくろの柄は現代のイメージとは異なり日本では古来から吉祥柄とされていました。だって。可愛いでしょ、髑髏手拭い」
B「む、むう。愛嬌あるね……」
A「第一、誰だって持ってるもんを縁起悪いとか言われたって困るよ! なくちゃ困るでしょ!」
B「でも、誰でも持ってるなら、わざわざよけいに持つこともないんじゃない?」
A「縁起いいものはいくつ持っててもいいの!」
B「ちなみに僕らの髑髏はどんなんだ?」
A「こんなんです!」

B「……嘘だ!」
A「うん、僕、自分の髑髏、見たことないから」
B「そうだね、僕も見たことない……」
A「いっそ自分の髑髏を菓子入れにするのはどうかな!」
B「君のだったら、してあげてもいいよ」
A「僕も、君のだったらいいよ」
B「相思相愛だね」
A「ははははは」
B「ははははは」
A「……」
B「……」

A「壺です!」
B「壺ですね!」
A「壺ですよ!」
B「……」
A「もうちょっとつっこんでよ!」
B「いや、なにを求められているやら……」
A「壺ってなにに使うものだったっけ?って、考えちゃったんだよ……」
B霊感商法に使います!」
A「そんなにハキハキと答えなくてよろしい!」
B「うちにはないよね」
A「ないよねえ。しかもこんなにでっかいの、どうするのかと」
B「比較対象が君だと大きさがわからないんですが……」
A「高さ1メートル……は、ないけど、まあ、70〜80センチくらい? で、口の大きさが、僕の頭がはまるくらいしかないの」

B「でもトポロジーとしては壺だからいいのではないですか」
A「それをいったら瓶でも茶碗でも皿でもくまでも同相です!」

B「くまさんを壺に使ったらかわいそうだよね……」
A「かわいそうって問題……?」
B「あ、くまさんは壺を使ってるよね!」
A「はちみつ入れか……!」

B「ガラス?」
A「うん、こう、もっとたくさんの色とりどりのグラスがおいてあって、色とりどりの影が落ちてて、ぜひ写真を撮りたいと思ったんだけどな!」
B「影を?」
A「影を!」
B「作品なのは影の本体のほうでは……?」