にゅるっと


A甲田学人夜魔』、文庫になって(『夜魔―奇 (電撃文庫)』『夜魔―怪 (メディアワークス文庫)』)読み返してから、考え直したことがあるんだけど」
B「読んでないので解説してください」
A「『Missing』シリーズのあやしいふたりが狂言廻し(?)として登場する怪奇(?)短編シリーズです」
Bはてなが多いですね。っていうかあやしいふたりって」
A「ひとりは、へんなものをよく見て、見るだけじゃなくてそれがふつうだと思ってて苦にしてなくて、むしろ親しすぎるくらいの、といってもへんなものぜんぶと話ができたり理解できたりするわけでもなく、基本的には見るだけ、魔法も使えないけど『魔女』だっていう女の子です」
B「説明が長いわりによくわからない!」
A「よくわからない人なのです。彼女がだいたい中学生なので、『Missing』より数年前のことだとわかる」
B「もうひとりは?」
A「ひとり、っていうか、にんげんじゃないんだけど、昔むかしはにんげんだったらしい男の人で、にんげんがなにやら度外れた願いを持つと、叶えてあげようってどこぞからにゅるっと出てくるという『魔人』です」
B「にゅるっと」
A「にゅるっと。で、このひとがもんだいなのだ!」
B「にゅるっと?」
A「にゅるっとはもういいの! なんかねえ、このひとが出てくるから、結末が破滅的になるんじゃないかと思ったの」
B「にゅるっとな。出てくる前にすでにけっこうどん底な状況に陥ってるようだけど、各編の主人公たち」
A「それもそうなんだけど。このひと、『君の『願望』は何だね?』って訊いてくるの。なんか、このひとに出会う以前から持っていた望みを引き出しているんだと思ってて、でも、それ、違うんじゃないかと考え直したわけ」
B「にゅるっとね。あ、それが冒頭で『考え直した』って言ってたことなんだ?」
A「そうなのー。このひとに出会ったから、願いが破滅的な方向に結実してしまうんじゃないかと。本人は、願いを叶える存在だって自分のこと言うけど、なんかさあ、騙されてない?って」
B「にゅるっと『ほんとうの願い』を捻じ曲げられてしまう、ってこと?」
A「『ほんとうの願い』などない!」
B「にゅるっとないの??」
A「あるけど!」
B「にゅるっとどっち!?」
A「不変のものじゃない、ってことだよ。魔人のひとと出会う前と出会った後で変わって当然なの。それは魔人のひとだけじゃなくて、他の誰かであっても、出会ったり、何かが起こったり、そういうもののすべてが『自分』の形成に影響を与えて、そうすれば『願い』も変わる。自分の『ほんとうのこと』って、変わっていくもの」
B「にゅるっと考えると、魔人のひとが破滅的な結末に導くっていうの、いいがかりっぽくない?」
A「い、いいがかってません!」
B「にゅるっとさあ、魔人のひとだって、数ある影響のひとつにすぎないんでしょ。決定的な何か、ではない」
A「つよいんだよ魔人さん!」
B「にゅるっと、決定的な何かを主人公やものがたりに与える存在は、狂言廻しっていわない……」
A「そこはそれ、作者があとがきで書いてたんだもん!」
B「にゅるっと?」
A「にゅるっと!」


「……私、そんなすごいお願いは、持ってないよ?」
「言ってみたまえ」
「たった一つだけずっと叶って欲しいお願いがあるけど、私がお願いしなくても、いつかそうなるって信じてる事だよ?」
「漠然とした将来への確信とは、婉曲だが何よりも強い望みの一つだ」