ゆかちんは羽根を育てる仕事をしている

筑波さくらの『ペンギン革命』です。
藤丸ゆかりは人の背に“羽根”が見えることがある。とても美しい、光り輝く羽根。彼女はそれが“スター”の証なのではないかと考えてます。その「才能を見る才能」を見込まれて(?)、ゆかちんは“葛城涼”という新人タレントのマネージャーをすることになります。
ゆかちんに見える羽根は美しく、彼女はそれが見えると惹き込まれて何も手につかなくなるという自覚があるので、そういうものから遠ざかる努力をしていました。彼女自身はとても堅実な性格で、夢は公務員なのである。お父さんが夜逃げして無一文になったので、学校の友達である涼にマネージャーに誘われたというわけです。
さて。
そんな彼女の“目”はとても純粋だ。羽根に魅せられては頬を赤くして、よだれたらしたぽわ〜って顔になってしまう。どんな状況でも、どんな人でも、ただその輝きに無条件に反応する。純粋で、その分、無情だ。そのぽわ〜って反応に、彼女自身の気持ち、思い入れ、好き嫌い、そういうものが入る余地はないのだ。
ゆかちんは涼のことが好きだ(どういう種類の「好き」かはともかく)。だから涼の手助けがしたい。だけど、その気持ちと、涼の羽根に惹かれるかどうか、というのは、別なのだ。涼の羽根はふだんはちんまりと小さく、でもときどき、涼が無我の境地にでもなると爆発的に大きくなる。ゆかちんはそれに魅せられている。それはとても、幸運なことだ……。
だけど、だ。
涼の羽根が大きくなるとき、本人に記憶も自覚もないっていうのは、どうだろう、とも思う。彼は「スターになる!」っていう自分の意志でもってがんばって努力しているのに、その努力が形になるのではなく、意志とは無関係な本能によって人々を魅了してしまう……そういう風に、見える。才能を引き出すのには、努力するしかない、ともいうけど、釈然としない。涼の同居人である“綾織真”(美人!)はその点まったく逆であり、非常にコントロールの効いたタレントのようだ。ふだん――舞台に立ってないときの行動のほうが、どことなくどーぶつっぽい……。
もうひとつ。“羽根”を持っていなければ、どうしようもないのだろうか? ちっさい羽根を大きく育てることはできても、ないものを生むことはできないのだろうか? 1を100にすることはできても、ゼロを1にすることは不可能なのだろうか? という疑問があります(これは、この先も描かれないかも)。
で。
涼たちの所属する芸能事務所の社長さんがとってもワルイ大人なんである(私は大好きなんですが!)。黒幕だ。けど、人を見る――才能を見ることに長けた人であり、だからいろいろおもしろがれるのですが、ゆかちんも涼も綾君も、この人の予想を超えてほしいなあ、と思うのです。並大抵じゃないけどね、だって他の人にとって「すごい」ってことでも、社長はそれだけの可能性を彼らが持っているということは知っているから。それさえも超えてほしい、と思う。


少女まんが的お約束もばっちり押さえてくれてまして、他にもいろいろおいしいです。上で書いたことは「ある一面」でしかないです。キャラクタ同士の関係性もおもしろい。そしてゆかちんが可愛い。
3巻まで発売中(ISBN:4592182413, ISBN:4592182421, ISBN:459218243X)、以下続刊っす。