黒でなければ白、白でなければ黒

加藤元浩Q.E.D.証明終了(27) (講談社コミックス月刊マガジン)』の「立証責任」。
学校で裁判員制度を体験するための模擬裁判をやることになり、可奈ちゃんが無駄に強いくじ運を発揮してくれたおかげで裁判員に選ばれた燈馬君と可奈ちゃん。裁判は、実際に起きた事件をもとにした強盗傷害事件。被告人に不利な証言がいくつも出てくるが、状況証拠ばかりで決定的な証拠はない。さて、評決は?
「想像」で補完して事件を語ることが常の「名探偵」が、「限られた証拠」だけで判断する裁判に居合わせたとき、彼はどうするのか?
――と、思ったら、そうくるか〜、っていう答えを出してきまして、おおー…、と。すごいよ。いろいろ。それでいいのか、って思わせるところも含めて、すごい。もったいないので書きませんが(直に読みたまえ)。
あと、燈馬君の推理力を知っている可奈ちゃんが、それでも評決のときに彼にまったく頼っていない、ってところが、おもしろかった。


で、思い出したのが、前に知人と話したこと。
その知人の知人の知人……なのか、まあ、聞いた話として、窃盗か何かの事件だと思うんだけど、捕まって、裁判で、「無罪だという証拠がないから有罪」になった、と言うのです。それを聞いて、「そんなはずはない、そんなことはありえないですよ」って、私にしてはずいぶん強く主張したのですけど、その知人は、その話を聞いた人を信用しているからか、わかってくれなかった、ようだった。まあ、私の説明も、うまくなかったんだろうが……それにしても、私自身の価値基準によって主張したように受け取られたのかも、と、いまになって気づく。

被告人の有罪を証明する全責任は検察側にあります
被告人は無罪であることを証明する必要は全くなく 訴えた検察が有罪を証明しない限り無罪なのです

とはいっても、もともと、こう↑はっきりと理解していたわけでもないんだけど、
「黒でなければ白」は言えても、「白でなければ黒」とは言えない
というのは知っていたので、そんなおかしなことを正式な書類に書けるわけがないよなあ、そんなんで有罪になったら逆に訴えることができそうなほどおかしい(実際できるかは知らんけど)、それよりも伝聞の途中で間違ったか、そもそも話し始めた人が勘違いしているか、……というほうがよっぽどありそうな話だ、と判断して、「それはない」って言ったのでした。
そして興味深いのは、この話が伝聞の途中でただされなかった(正す/糺す)、ってことは、この原則があまり知られていない、ということだ。
……ええー、私ですらなんとなく知っていたのに?って気がしないでもないが……っていうか、知られていないのだったら、どうして私は知ってたんだろう。それとも、知人の周辺で局所的に知られていなかっただけ?


Amazonのレビューで、

 無罪判決をするにも裁判官が一人必要だという間違いがあるけれど(実際には有罪判決をする場合に裁判官が一人入っていなければいけないのみ),それ以外はよくできています。

とあるので、そうなの?と思って、裁判所の裁判員制度のサイトを探してみるも……

 評議を尽くしても,意見の全員一致が得られなかったとき,評決は,多数決により行われます(ただし,裁判官,裁判員のそれぞれ1名以上の賛成が必要)。

 有罪か無罪か,有罪の場合の刑に関する裁判員の意見は,裁判官と同じ重みを持ちます。

……まんがでは、決まった側に最低一人の裁判官が賛成していなければなりませんて説明しているので、これだと正しい(裁判員6人、裁判官3人なので、多数決で勝った側には必ず裁判員は含まれる)。
が。

評議を尽くしても,全員の意見が一致しなかったときは,多数決により評決します。この場合,被告人が有罪か無罪か,有罪の場合にどのような刑にするかについての裁判員の意見は,裁判官と同じ重みを持つことになります。ただし,裁判員だけによる意見では,被告人に不利な判断(被告人が有罪か無罪かの評決の場面では,有罪の判断)をすることはできず,裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要です。

……て説明しているページもあって、ここでは、裁判官,裁判員のそれぞれ1名以上の賛成が必要とは書いてないから、無罪の場合は裁判官の賛成は要らないように解釈できる。で、裁判員5人が有罪、裁判員1人と裁判官3人が無罪とした場合には無罪、……なんだそうだけど。いや、それ裁判員と裁判官、同じ重みじゃないじゃん!ってつっこみはともかく。
よくわかんないぞ……?
じゃあ、裁判員6人が有罪、裁判官3人が無罪としたら? 有罪にするには裁判官1名以上の賛成が必要、という条件では、やっぱり無罪なんだろうけど、裁判官,裁判員のそれぞれ1名以上の賛成が必要というほうの条件は満たさない。これは、裁判員6人が無罪、裁判官3人が有罪とした場合でも、条件を満たさないことでは同じ。裁判員5人が無罪、裁判員1人と裁判官3人が有罪とした場合も、そうだ。
むう。
まあ、裁判員の立場だったら、どっちだろうと関係ないんだけど。自分が有罪と判断するか無罪だと判断するかには、関係ない。
関係あるのは被告人。
……やりたくないよなあ、裁判員。無罪にしてしまいますよ私は。有罪の人を間違って無罪にしてしまうよりも、無罪の人を間違って有罪にしてしまうほうが嫌だ。が、有罪の人を無罪にしてしまったら、被害者が怒るよな、やっぱり……。
司法関係者や法律の学者は裁判員になれないそうですよ。なので、裁判員をやらないためには、裁判官になればいいのだ!