「栞の柄」


B「本にはしおりがつきものです」
A「そう? 僕、あんまり使わないんだけど」
B「というわけで、はてなブックマークです」
A「えらく強引な展開だな……」
B「『はてなブックマークのコメント一覧非表示機能について - はてなブックマーク日記 - 機能変更、お知らせなど』というわけで、サイト作者がはてなブックマークコメントの一覧を非表示にできるようになったですよ」
A「ふーん……」
B「……」
A「……」
B「……」
A「……ま、いいんじゃないの」
B「あ、いいの? いま、ちゃんと考えてた?」
A「うんうん考えてた考えてた、めっちゃ考えた」
B「うさんくさいなあ」
A「まあ、害はないんじゃないかなあ」
B「益もない、みたいな言い方だなあ……問題を整理すると、ネガティブなコメントが並んでサイト作者がむやみにショックを受けないように、かつ、ブックマーカーが自由にブックマークできるようにする、だよね」
A「自由にブックマークというのがまた曖昧だけど」
B「まあ、とりあえず前者は?」
A「コメントがずらーっと並んでなきゃそうそうショックも受けないでしょ」
B「かんたんに言うなあ……」
A「っていうか、ネガティブコメント自体が減るんじゃないかなあ、こないだ、ミルグラム実験の話したじゃん」
B「……あー、うん、人間は、その場の雰囲気に流されて、他人の命が危うくなるようなことでもやってしまう……ってことは」
A「そう、そもそも、ネガティブなコメントって、考えて書かれたものよりも、その場の雰囲気に流されてついつい書いちゃったものが多いのでは?」
B「…………いやな話だなああっ」
A「あれ、思ったよりはげしく嫌がったな……」
B「だって、いやだよ、そんなの! ちゃんと、自分の悪意で、自分の敵意で書けよ!って、思わない?」
A「ふつーは、書かれること自体を嫌がります」
B「ふつーのことなんか知らないよ! っていうか、他人がどういうつもりで書こうが、どうでもいいんだけどさ!」
A「あ、けっきょくどーでもいいのか……」
B「自分がだれかにひどいことを言ったとき、それが自分の悪意じゃなくってただ雰囲気に流されてただけだったりしたら、それはすごくいやじゃん!」
A「ふーん……悪意よりも無思慮のほうが嫌いなんだね?」
B「そういうまとめ方もきらいです!」
A「僕は好きです……無思慮というよりも無意志というほうがいいかな」
B「君は無意志じゃないけど無思慮だよね!」
A「思いやりは足りないけど考えてないのとは違うよ……で、この応酬はその場の雰囲気に流されてるのとは違うのかな?」
B「…………もおおおっ!」
A「いちいちほえなくていいよ……」
B「君に怒ってるんじゃないです! まあ、……流されたかな! うう……」
A「雰囲気に流されないことなんてできない……っていうか、周囲の環境と独立した意志などあり得ない、ってところじゃないかな」
B「……なんだかなあ……」
A「とにかく、人間は、たとえ相手の苦痛の悲鳴が直に聞こえたとしても、その場の雰囲気に流されたら……呑まれたら、それをやめることはできない、のだよ」
B「ネットだったらなおさら、って? っていうか、それは、『雰囲気』なのか、はっきりした命令者なのか、って、この前話してたときも疑問だったけど、なんかヒゲでごまかされたんだった!」
A「ごまかしてません!」
B「……まあ、『場』がなければ暴走はしない、かな……」
A「そういうことそういうこと」
B「……他に移るだけでは?」
Aはてなとしてはそれでもいいんじゃない?」
B「そりゃ、ネガティブコメントの人だけが移るんだったらそれでもいいだろうけど、そうはいかないでしょ」
A「けど、実際問題、この機能を使う人はめったにいないと思う」
B「めんどくさいから?」
A「そうそうめんどくさい、このめんどくささはわざとじゃないかな」
B「意地悪?」
A「それぐらいのコストは自分で払いやがれっていう」
B「意地悪?」
A「じゃなくて……合理性ですよ、めんどくさければ、ほんとうに使いたい機能なのかって事前に考えるじゃないですか」
B「考えた末、やめるだろうって期待できる……かあ?」
A「どうだろう……うーん、ブックマーカーに無視されたくない人は使わないと思うんだよ」
B「うん」
A「無視されたい人が使うんですよ」
B「うん」
A「そうするとブックマーカーもそういう人を無視します」
B「そう?」
A「うん、あのねえ、どうしても、なんとしてでもネガティブなコメントをつけなければならないほどに価値のあるエントリって、ないから」
B「……って、全方面に向けてネガティブコメントを放ったね?」
A「いやいやそれほどでも」
B「ほめてない! ってか、『価値』ってのは、ずるいと思う!」
A「そう?」
B「価値を決めるのは君だけじゃないよ!」
A「じゃあネガティブコメントになってないんだから、いいんじゃないかな」
B「……むー……あー、あのさ、もしかして」
A「うん?」
B「最初に『害はない』って言ったの、どうせたいして使われないんだから害はないって意味? 君、さてはネガティブブックマーカーかっ!」
A「いやいやそれほどでも」
B「だからなんでそんな反応っ?」
A「まあ、どっちかというと『モノ言う側』で考えるなあ、『モノ言われる側』よりも」
B「自分が言いたいことが言えればそれでいいのかー」
A「まあ、わりと」
B「……」
A「コメント一覧非表示にされようが、それは一覧が見れないってだけだから、言うだけは言えるし、やっぱり問題はないんだよ」
B「自分のことばっかりだなあ……」
A「そうだよ、だって悪意は自分で放つんだって、君も言ったじゃん」
B「……どうせ放つなら、ってことだよ、悪意たれ流しはダメだよ……」
A「たれ流しなんかしないよー、そんなことしたら威力がなくなる」
B「……」