欠けた輪郭

再読強化月間につき甲田学人「Missing」シリーズを読んでました。全13巻。
どんな話かというと……紆余曲折して故郷に還る話? ……またおおざっぱすぎて違ったことになる要約を……。けど、あらためて通して読んでみて、小野不由美魔性の子 (新潮文庫)』を想起したよ。遺される側から描かれているってところも共通してるし。
まあ、こわい話……です。オバケとか出てくるんで。オビには「現代ファンタジー」ってありますけど。「ファンタジー」? か?
上で書いた「故郷」というのが、「異界」という、この世ならぬ世界(この世じゃないからってあの世でもない)で、その異界からの侵略(あるいは侵蝕)を受けているのがこの現界。異界のモノというのが、いわゆるオバケってやつです。オバケって言っちゃうと、なんか違うなー、でも幽霊ではないんですね、現界の基準では「死んだ」としか言えない人が異界から来たりしてるけど、幽霊ではない。実体があるから、かな。まあ、そういうこの世ならぬモノが出てきて、登場人物がこわがるので、「こわい話」。侵略の手口にまんま「怪談」が使われるので、作中「こわい話」でもある。
でも、(読者にとって)こわい話かどうかってのは、じつはあんまり重要でもない……ようにも思うのです。主眼は「恐怖」にはないよなあ、と。ふつうの人間がふつうに認知できない、その認識を超えている世界がすなわち「異界」なのだ、と。受け入れられず、恐怖するしか反応のしようがない世界があるのだ、と。――一方で、ふつうは恐怖するしかない世界を受け入れてゆるぎない人間もいて――それは異常者であり、狂人として描かれる。いちおうの社会生活を送りながらも、そんな世界を受け入れるだなんて狂っているとしか言えない――という人々。その、乖離。

「受け入れられずに狂う事は、受け入れた事と変わらないと思うよ? どっちも周りからは、乖離しちゃうでしょ? それはカタチが違うだけで同じもの。どちらも同じ“正気”じゃないかな……」

 言いながら、口元に人差し指を当てた。

「だって、どちらも“視える”事に対する正しい反応でしょ? そもそも“視える”事が正常じゃないって言うなら、それに対する反応を正否で語るのは間違ってるよ。みんな人間同士、全然見てるものが違うのに、何故か同じだと思ってる。それぞれ一人にとって、ほかのみんなが異常なのに、誰もそうは思わない。
 人間って一人一人が全然違う生き物なのに、誰もそれを認めないのは不思議だな。突出して違う世界を見ている人を、周りが“狂人”だって呼ぶのは幻想だと思うよ。人間がみんな同じ世界を見ているなんて、そんな幻想があるから、正気なんて偽物の定義を作る。『人間』なんて単一の生き物は、世界のどこにも存在しないのにね」

 ねえ? と詠子は一拍置く。

「誰も蛙を、“狂ってる”なんて言わないのにねえ……」

と、当人は言う。……内容には説得されるけど、この人が言うとなんかおかしい、ような。
とはいえ……
小説から直接に伝わるのは、恐怖部分まで、になってしまいます。まあ、直接には、ですが。異界がどれくらい「違う」ものなのか、それを受け入れる人との乖離がどれだけのものなのか、それは直接には「描けないもの」なんじゃないかなあ。恐怖という輪郭で一片を語ることができるのみで。その先は、読み手の想像力、というか……いや、これって「想像」かなあ、想像じゃ、わからないんじゃないかな…………なにいってんだかわかんなくなってきた……。どんな小説――に限らない創作物――でも、「語りえぬもの」について語ろうとする部分は、あるか……