「はい」
「……、ええっとー、なんか見たことある本なんだけど、え、昨日のつづきなの?」
「うん、いや、けっきょく、天才の子どもは天才なの?」
「なんで僕に訊くのー、逆でしょ! 違うよ!」
「いや、なんで答えるの……違うんだ?」
「違うんじゃない。天与の才、っていうくらいだし」
「でも、子どもだって天からの授かりものっていうじゃん」
「だって、人間はもう、子どもを天から授かりたくないんでしょ」
「うん、才能も天から授かりたくないらしい」
「そうなの? そうかなあ。親は子どもに自分が才能を授けたいんだけど、子どもとしちゃ、親に授かったと思うより天から授かったと思うほうがいいんじゃない?」
「ああ……君、昨日さ、子どもは『じぶん』なんだって言ってたよね。でも子どもから見たら親は『じぶん』じゃないんだ、ぜんぜん、まったく」
「あ、うん、そうだね、そういうことか。じゃあ話おしまい」
「あれ、なんの話してた?」
「天才の子どもは『天才の子ども』です、という話」
「ふーん……。そういえばさ、小野不由美の「十二国記」世界では、親子に血のつながりがないんだよ」
「へー、どういう社会制度?」
「ううん、社会制度の違いじゃなくて、生き物としての違いなの。子どもは、まさしく天に願って授かるの。願いが聞き届けられると、木になるんだよ、卵が」
「に、にんげんの卵……。え、ひとりで子どもつくれるの」
「いや、結婚してる夫婦じゃないとダメ。だから私生児はいません。で、親子は似ていないの。似てなくて当たり前。似てたら気持ち悪いって感覚なんだなー」
「いっそすがすがしいね。あーでも、天がほんとうに『ある』っていうのも、気持ち悪いかも」
「えっ、天から授かるほうがいいんじゃなかった?」
「ほんとうに『ある』っていうのとは、違うもん。『ある』んだったら、親から授かった、っていうのと同じだよ」
「……君の言うことは、やっぱりわからん……」
「じゃあ僕、寝るよ、おやすみー」