「夢って、見ている間は夢だと気づかず、覚めてみて夢だとわかるよね……」
「そうそう。だから、胡蝶の夢の話は、ちょっとバカみたいだよ! 蝶になった夢から覚めて、自分が蝶の見ている夢かもしれないなんて、本気で疑えるわけないよ!」
「ううーん。それよりも、蝶の夢を見ている自分の夢を見ている亀がいる、という疑いのほうが強いかもね」
「それだって、本気で疑えるかっていったら、疑えないよ!」
「たまには疑ってみたほうがおもしろい気はする」
「ぜんぜんおもしろくないよ! 腹立つ!」
「なに怒ってるの?」
「怒ってません!」
「腹立つって言ったくせに……」
「というか、どこがお土産話なの?」
「あ、ほらほら、ライオンがあくびしてるよ!」
「僕もあくびがでるよ!」
「動物園の動物ってヒマなのかな」
「あくびと眠気とヒマと退屈について語りたいの?」
「いやいや……小動物はあんまりヒマそうに見えないんだけどねえ」
「そりゃあ、たんに、動きが頻繁かそうじゃないかってだけだろう……」
「まあね、野生のライオンだって、始終動きっぱなしってわけじゃないだろうとは、思うけど」
「やることはなさそうだな」
「うん、食い扶持を稼ぐことも、身を守ることも、伴侶を探すことも、する必要がない、というか、できない」
「ただ、する必要がない、というか、できない、ってことを、本人(ひとじゃない)らは理解しているの?」
「そこがわからん」
「あと、すべきことがない、ってことと、それがヒマだと感じることと、ヒマなのが苦痛なのとは、それぞれ別のことなんじゃない?」
「最初のはともかく、後のふたつは同じことじゃないかな」
「そーお? だってヒマがないって愚痴る人はたくさんいるじゃん」
「そういう人はヒマになったらもっと愚痴る!」
「わあ、また断言した!」
「だって、たいていの人は、時間を、すべきことで埋め尽くそうとしているように見えるんだもん」
「すべきこと? 楽しいことや、おもしろいことじゃなくて?」
「うん、すべきこと。死ぬまでの時間を、きっちり埋め続けて、満足したいみたいに」
「そのわりには、やるべき仕事や勉強より遊びを優先しちゃって後悔する人ばっかりのような気がするけど」
「いや、でも、そこで後悔するでしょ、ちゃんと。楽しかったからまあいいや、ってことにはならない」
「そりゃ、あとでしわ寄せがやってきて、めんどいからでしょ」
「それはちょっと違う」
「わかんねえよ!」
「僕もよくわかんないもん!」
「逆ギレ!」
「むう……たいていの人は、時間がかかる、ってことを嫌がるよね」
「うん、僕もあんまり好きじゃないね」
「なんで?」
「えっ……」
「……」
「……なんで、って、なにがなんで? どっかおかしい?」
「おかしかないけど、不思議でしょ」
「不思議か?」
「不思議だよ!」
「そうか、不思議か……」
「洗脳されてんなよ!」
「また!?」