「で、俺は考えた」
また少し芝居がかる。
「何を?」
「公園のベンチに座って、ぐったりしたぬいぐるみに向かって『大丈夫ですか!? しっかりしてください!』と言い続ける自分がどんなふうに見えているかなあって」
奥泉光『黄色い水着の謎―桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活〈2〉』
しかし、いったい自分はこんなところで何をしているのか? ふと思えば、そもそも自分は何のために生まれてきたのだろうかと、いつものように哲学ふうな問いが浮かんできたが、思索を巡らすまでもなく答えははじめから出ていた。自分は死ぬまで生きるために生まれてきたのである。それだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。そう思うと一段と寂しさはつのって、とりあえず何か卑猥なことでも考えてこの時間をやり過ごそうとしたとき、丹生愛美と熊島鈴香の一年生組がやってきた。「張り込み」を交代したんだろう。
加藤元浩『C.M.B.森羅博物館の事件目録(27) (講談社コミックス月刊マガジン)』
「こんな簡単なことをやろうともしないで不満ばっか言いやがって!」
「そ……それは……」
「考えつかなかっただけで……」
「違う! あんた達は周りが自分の思う通りになるのを待ってるだけ
現実がどうしようもないときに 知恵を絞ってなんとかするのが『考える』ってことよ!」
何か、あれこれ考えてしまう。何を考えていたのかと云えば、あれこれとしか云いようがなく、要は取り留めのない無駄な思考をしていただけなのである。筋道を立てて論理的に考えようと努力はしていたのだけれど、問題なのは、別に考えなくてはいけないことなど何もないと云うことなのであった。