信仰

ガラス戸の向こうに虎がいる。
虎はこちらに来たいのか、何度もぶつかってくる。ガラスは破れない。べつにこっちの人間を食べようとしているわけではない。それにしても、いっしょの空間にいたいものではない。みんな、こわがってはいるようだけど、怯えてはいない。ただ、困っている。外に出られないから。ガラスが敗れることを心配するのではなく、ただたんに、困っている。外に出たいのに。私もそう思っているけど、でもお腹が痛いのだった。痛すぎて鼻で息ができなくて、口で呼吸している。お腹が痛いから、外に出たい。この腹痛は、火山の火口に雪がないからなので。融けない雪を探して、山に登って、山頂にささげなければならない。という対処法があっているかはじつはわからないんだけど、とにかく、原因は、雪と火山なのだった。だから、だいじょうぶ。すっごく痛いけど、原因はわかっている。ちゃんと、理由はあるんだから。とにかく、みんなで外に出ようってことになった。虎がいるところとは反対側の扉を開けて、みんなで外に飛び出す。散り散りになる。でも、全速力で逃げ出すって風でもないのだ。みんな、のんきだなあ。私はお腹が痛いから、どのみち走れないんだけど。そのうちの誰かを、虎は追いかけていったらしかった。彼女は追いつかれたらどうなるんだろう。とは、考えない。それは、考えなくていいこと。とにかく、私は雪を探さなくてはならないのだし。石畳の道がずっと続く。街路樹もずっと続く。古風な、煉瓦の建物があって、そこは図書館なのだった。しかも小学校の。でも私は通りすぎる。当たり前に通りすぎる。とうとう道の終わりがくる。ちょっと重厚だけど、でも近代的なビルで、そこは学習塾なのだった。中に入る、そこには人がいっぱいいて、でも子どもなのか大人なのか、私にはなんだかわからない。パンフレットがいっぱい落ちている。それがいやで、とっとと通り抜けようとする。お腹が痛いし、歩きにくい。でも、ちゃんと原因はわかっているし。腹痛の理由はあるし。突き当たりのエレベータに乗る。ここにも人がいっぱいいる。なんだか大きいエレベータだ。ごついし。これって、もしかして煉瓦じゃないだろうか……。昇ったエレベータは、屋上に着いたのだ。それで私は、ああ、そういえばここはデパートだった、と思う。簡易テーブルと椅子がずーっと並んでて、なんだか密集しているけど、人は密集していないし、むしろくつろいでいるようだった。そこに座れば、自動的にヨーグルトが出てくるんだって私は知っている。でも私が座ったときだけは、きっと、ヨーグルトは出てこない。どちらにしろ、お腹が痛いときにヨーグルトでもないだろうし、白くてもそれは雪ではない。空もなんだか白っぽいけど、こんな白じゃない。雪じゃなければ、痛いまま……。でも、原因はわかっているし、理由はあるんだから、だいじょうぶ。だから、雪を見つけなければ。次の場所に行かなければ。でも、ここ、屋上なんだけど……と思ったら、ぐらぐらと揺れた。ビルみたいなものがぐらぐら揺れた。揺れて崩れたから、ちゃんと下に降りられた。というか、落とされた。私にだけは、瓦礫は落ちてこないし、痛いのはやっぱりお腹。他にたくさんたくさんいた人たちはどうなったのか、でも私はお腹が痛いし。ずっと口で息をしていたら、喉も痛くなってきたけど。でも、痛い原因はわかっているんだし、痛いことに理由はきちんとあるから、だいじょうぶ……