たびにっき・そのに

昨日の、「トリノ・エジプト展」のつづきー。

王様が前の王様の記録を消しちゃったり、像の名前を消して自分の名前を書いちゃったり、という話があって、まあ、歴史とは勝者の記録であるとはどこの国でも言われることであり、王様はよい伝達者ではないのだなー、と思った。
しかしひとさまの記録を消すということは、自分も消される可能性が高くなるということであり、それはいいのかな、と。死者の国で永遠に生きるのだから、現世でどう語り継がれようといいのかな、とも思ったけど、どうやら、名前がなければ復活できないらしいです。その、「名前がある」というのが、記録に遺されているということなのか、は、わからないんだけど。でも、自分の名前って、自分で知ってるだけじゃ意味がなくて、誰かに呼んでもらうためにあるもの、なので……たとえ自分で知ってても、自分以外の人が誰も名前を知らなければ、名前はないも同然、と思う。となると、やっぱり記録から消されてしまうのは、いたい。
とはいえ、記録と記憶は別のもの。現に、消されているという事実が伝わっているということは、消しきれなかったということだ。そして、消されているということを知ってしまうと、ふつうに記録が残っているよりも興味をひくものなのだった。なんだ、よい伝達者ではないですか王様。
信仰する神様を限定しようとしたら、民に人気がなくなっちゃったので元に戻した、という話もあり、一時期でさえ神の名を消すこともできなかったようだ。
王様ではなく、民間で名前を消して消しきれなかった例も展示があった(いや、そういう説明がついていたわけではないが)。
女性の棺を、数年後に男性が奪って使った、という。人型の蓋がついた棺で、女性用と男性用ではなされるべき装飾が違うんだけど、男性用に直しきれていない。……いったいなんでそんなことをやったんだか、事情がたいへん気になるのですが、そんな記録はもちろん残ってない(いや、残ってるのか残ってないのか、説明はなかったけど、残ってないだろう)。そして、名前なんですが。女性の名前を削り取らずに、その上から男性の名前を上書きしてあった、という。コンピュータでは上書きするともとのほうは完璧消えちゃうわけですが、そうじゃないので、女性の名前はわかっている。「ルル」だったか、なんか、可愛い名前だった。けど、なぜか、男性の名前は展示に載ってなかったのです。それがなんでなんだか、非常に気になる。下の名前が判別できて、上に書いた名前が判別できないのか。それとも、判明しているのに展示から省いたのか。……たんに私が見落としただけだったりして……。
ルルちゃんの名前を完全に消さなかった理由について、音声ガイドでは、さすがにそれはおそれおおかったのでしょう、というように言ってましたけど、いや、棺から追い出しておいてそれはない、と、思う……。ミイラも名前も、復活のための必需品。というか、追い出したミイラはどうしたんだろう。
なんというか、無防備なんだな。復活のための必需品を、生きている人に任せなくちゃならん、っていうのが。日本では、供養が足りないと化けて出ることができることになっておりますが、古代エジプトではどうだったんでしょう。親子関係とか、どんなもんだったんだろう。
……無防備な状態で留めおかれて、そこから動けない、というのが、死ではありますが(というか、それは死そのものというよりは、生者にとっての死者なんだろうが)。だから、そうじゃない、って話を、いつの時代でもどこででも、つくる。いつかは自分も死ぬのだから、おそれてもらいたいのだ。
……まだつづく!