戻れない一線

歳をとるって、老いるって、もっとこう、小さくなる、ってことかと思ってたんだけど(というか、まあ具体的な想像はしてなかったんだが)、バランスが崩れることじゃないかな、と思う。
それに対処しているうちに、ほかのところでも崩れていく。という繰り返し。
ここ五年ほどのうちに、戻れない一線をいくつも越えてる感じだ。体力とか筋力の衰えとかは感じないのですが。ええ、もともとないので。もともと使ってないので。

まだ二十代だったころに、二、三歳年上の人から、三十になったら紙がめくれなくなるから、と予告されたことがあって、これ、ほんとうでした。手の脂、とかいうけど、これって汗なんですな。去年、菅屋潤壹『汗はすごい: 体温、ストレス、生体のバランス戦略 (ちくま新書 1264)』を読んだときに知った。そして、ヒトは手のひらに汗をかくのだ、ということもはじめて知った……。私、ないんです。いや、たぶん、ふつうに蒸発するだけの汗はかいてるはずなんですが、滴るほどにかいたことはない。夏に紙に絵を描きにくいのも、手のひらより、腕の汗のせいだと思う。それまで、手に汗を握る、とかいうの、そういう慣用句なだけだと思ってたんですよ! 異性と手をつなぐのに汗かいちゃって恥ずかしいどきどき、とかいう経験がない……。で、フィクションでそういう描写があったときも、思春期特有の自意識過剰だよ気にしすぎだよ相手はそんなん気づかないよ的描写なのかと、ずっと、思っていたんです……。人体にはまだ不思議なところがたくさんある……(そうじゃない)。

「すっごく緊張して 手に汗かいちゃって恥ずかしいのに! なのに! なのにですっ!
 それでも頑張って手を繋いでくれるから 良いんじゃないですか……」
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