エウレカ!

「ほらね、外の証拠など求めるべきじゃない――そうとも、推理力だけで充分なんだ。とはいえ、人間は弱いもので、自分が正しい方向に進んでいるとわかれば励みになる。ああ、わが友よ、とてつもなく元気が出てきましたよ。走って、跳びまわりたい気分だ」
 そして、その言葉どおり、彼は窓の外に広がる芝生の上を走ったり跳びまわったりして、はねまわった。
アガサ・クリスティー『スタイルズ荘の怪事件』(ISBN:9784151300011

「二〇〇〇年のあいだ忘れ去られていたものを、私が初めて読んだのだ」。粘土板を机の上に置くと、彼は跳び上がり、猛烈に興奮した様子で部屋のなかを走り回り、その場にいた人びとの驚きをよそに、服を脱ぎ始めたのだ!
ニール・マクレガー『100のモノが語る世界の歴史1 文明の誕生』(ISBN:9784480015518


百年前の若いイギリス人女性の描く、浮かれたおっさん。と思うとなんともふくざつな気分になりますがな。スタイルズ荘はポアロ最初の事件(といってもこの時点ですでに「引退した元ベルギー警察官」で、おっさんというか、初老のおじいさん)ですが、ポアロ最後の事件『カーテン』(ISBN:9784151310331)の舞台がふたたびスタイルズ荘なのです。それを読んでからこのシーンを思い出すと、寂寥感でいっぱい。と同時にクリスティーのおそろしさに戦慄する。女王陛下容赦ねえよ。いやほんと。
「最後の事件」は書かれたのは最後ではなく、発表の二十年も前らしいのですが、この持ち球を隠しながら何作も書いているのだから、ほんとこわい。このこわさを味わうにはポアロシリーズぜんぶ読んでから「最後の事件」を読むがいいよ。
そしてヘイスティングズかわいそうとおおいに同情するがいい……。