安全装置

限られた理解力しか持たないわれわれの脳があまりにも複雑な世界に対面したときに壊れてしまわないために脳自身が設定した安全装置――それが因果律なのです。われわれが理解している世界はわれわれの脳の中の幻想に過ぎないのです。われわれ人間はその幻想なしには生きていけない。

因果律に従わない思考とはどういうものだろう?
雨が天に昇ろうが、ブタがヒトの子を産もうが、因果律が逆転しているとか乱れているとか認識するのであって、因果律がない、とは思わない、そして、そうなった理由を求めるだろう。それが幻想に過ぎないと語る「酔歩する男」自身も、さまざまな時間を渡り歩きながらも、因果律の思考から離脱したわけではない。ここが、因果が巡る大いなる美しい世界だから人はそう理解するのではない。どこへ行っても、同じだろう。
記憶があるからそういう思考をするのか、とも思ったけど、たぶん違う。記憶というのからして、「脳の中の幻想に過ぎない」。