おにいちゃんがおにいちゃんを呼ぶ

バスが停留所に停まるちょっと前に、後方座席から、降りるらしき男の人が歩いてきて、そのあとを追うように女性の声が「おにいちゃん!」と呼んだ。
男性は気づかず。
そのあと、別の男性――若い男性が、何かを持って走っていったので、落とし物を、近くの席の乗客が拾ったんだな、とわかった。そのおにいちゃんも「おにいちゃん!」と呼ぶ。
男性は気づかず。
再度呼びながら、真後ろから落とし物をつきだすようにして、ようやく気づいた模様。
文字で書くとわかりにくいんだけれど、弟妹が兄を呼ぶ口調ではなく、とおりすがりの人を呼んでいるのは明白でした。
傍からすれば、状況は一目瞭然だったのに、あのおにいさんはなぜ自分が呼ばれているとわからなかったのだろう。「おにいちゃん」の範囲におさまらない――と、自分で思っていた――のだろうか。
などと、もっともらしく疑問を述べてしましたが、雑踏、と、いうか、自分を知っている人がいないと思っている場所にひとりでいると、周囲の声って、あまり意味を持って聞こえない。と、思う。いや、ときどき赤の他人の会話を採取しておいていうことじゃないですが。