みやげばなし・そのろく

A「命があるっていうのは、時間があるっていうことだよね」
B「そ、そう?」
A「そうです! 時間の流れを感じることが生きること」
B「それって……寝てる間は死んでるの?」
A「あ、あれ?」
B「逆に、夢を見てると、夢の中では何十時間も経ったりするよね。もちろん何十時間も寝てないのに」
A「あ、うん……」
B「また変なことを言ったね!」
A「むう、時間の流れって一定じゃないんじゃないの、そもそも?」
B「そうきたか」
A「江戸時代まで(正確には明治5年まで)、日本では不定時法だったでしょ。時間を一定に測ってなかった」
B「一刻は二時間じゃないの?」
A「それは平均です。昼と夜をそれぞれ6等分するの。一日を12に分けるから平均すれば一刻二時間だけど、昼と夜で一刻の長さが違うし、季節でも違う」
B「めんどくさいことするなあ」
A「いや、時計なんてそう持ってるもんじゃないし、太陽の高さで時刻がわかるから、そっちのほうがべんりだった、らしい?」
B「ふうん?」
A「……っていうより、たとえその長さが違ったとしても、一刻の価値、という点では一定だったんじゃないかと思うんだよね!」
B「価値?」
A「夏の昼の二時間と冬の昼の二時間は価値が違うけど、夏の昼の一刻と冬の昼の一刻は価値が同じなの」
B「灯りが貴重品だったからかな」
A「まあね。外仕事の人が多そうだしね。昔の日本人と現代人の時間感覚が同じだとは思えないな!」
B「それは……そうかもしれないけど……」
A「なんでそんなにうなずきたがらないの!」
B「洗脳されちゃうからだよ!」
A「洗脳されちゃってよ!」
B「ところで時間の価値って何!」
A「か、価値?」
B「命が時間だとするならば、命ってどんどん、削られていくものなの? それこそ、刻一刻と。何をしていても、何もしていなくても」

「与えられた時間を
 せいぜい しあわせに

 死を待って

 生きるといい」

A「……………………なんかこわいよ!」
B「えええ、君だって同じようなこと言ってたよ?」
A「言った!?」
B「言いました。生き物は必ず死ぬって言いました」
A「死を待つのとは違うもん! 待つなよ! なんにも、待つな! 待ったら死ぬ!」
B「待たなくても死ぬんじゃないの?」
A「そうだけどさあ、違うじゃん!」
B「なんとゆうか、時間の価値っていうより、人生の価値の話になってない?」
A「む」
B「にんげん以外の動物にも、植物にも、命があって、時間もあるよね」
A「僕にもね!」
B「僕にもね!」
A「というか、価値、というのからして、人間的な概念なんだから、仕方ないんじゃ……」
B「ああ、そうか、人間以外の生き物は、命や時間に価値があろうとなかろうと、ただ生きるだけなんだ……」