「……………………」
「……? なにまんが抱えて、かたまってるの?」
「いや、うーんと、これねえ。なるしまゆり『非怪奇前線 (ウィングス・コミックス)』の、書き出しが、こう」
かつてオレには親友がいた
美しい脚を持ち その優しさは狂っていた
「な、なんかすごいね」
「なんかすごいでしょ! かたまっちゃうよ!」
「ちなみに僕の足は可愛いと評判です!」
「はっはっは。脚じゃなくて足なんだよねえ」
「うう。脚っていうと、長さがなくちゃならん感じ」
「可愛い足! 美しい脚!」
「で、こんな書き出しでどんな話なんだかさっぱり予想がつきませんが……」
「正確には、表題作『非怪奇前線』の後日譚『非怪奇前線 The AFTER』の書き出しなので、つまり『非怪奇前線』の要約になってるの。“かつて”“親友”“美しい脚”“優しさ”“狂っていた”」
「ますますわかりません!」
「まあ、読みなされ。で、さ。この世界に、自分の知らない法則があって、そしてその法則を知っていて裏から支配している人たちがいる、っていう想像、どう思う?」
「は?」
「支配している、じゃなくて、世直しをしている、でもいいけど」
「? いや、べつに、どうとも……」
「人って、偶然ってものを信じないんだよねえ、どうにも。偶然を信じず、運命を信じる」
「??? そういう話なの?」
「そうじゃない話なの。悪いことが起こって、そこに法則があるのならば、いま自分が知らないとしても、なんとかなる、かもしれないけど、偶然はけっこーどうにもならん」
「偶然どうにかなるかもよ?」
「そうなんだよね。それが偶然。で、偶然って、偶然です、っていえばそれでおしまいなんだけど、なぜか納得しないよね、理由があるって思うよね」
「理由があったら偶然じゃないでしょ」
「そうなのさ。どうにもならん、は、どうにもならん、なのだよ」
「どうにもならんか」
「偶然どうにかなるかもね」
「わからんのか」
「わからんのだよ……」
「わからんのか……」